ちょっと残念を通り越して笑えてくる。
漫画の映画版が原作のあれこれを踏襲しないのは今に始まったことじゃないし、場合によってはそっちの方が面白いときもあるけれど、まさか10本刀No.2の魚沼宇水さんをあんなモブキャラ同然に扱うなんて……。同じく10本刀で出番も多かった張が、「剣心や斉藤より格上」と見誤るほどのオーラを携えている男なのに。
確かに、原作の宇水さんは小物っぷりを露呈してしまったが、それでも斉藤一に相当の深手を負わせたし、オリジナルアニメ『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚 新京都編 前編 焔の獄』では、宿敵・志々雄相手に真っ向から戦いを挑んで「男の意地」を貫いたじゃないか!
それが、伝説の最後編では、浜辺で他のモブキャラたちに紛れて斉藤と対峙するも、通常型式の牙突を防ぎきれず一発KO。剣心VS宗次郎も控えてるし、尺が足りないのは理解するが、ローチンで一突きくらいの攻防があっても良かったんじゃないの……。
かつて人斬り抜刀斎と呼ばれた伝説の人斬り、緋村剣心(佐藤健)。刀を置き、平穏な生活を送る剣心は、ある日、剣心から影の人斬り役を引き継いだ志々雄真実(藤原竜也)が京都でその名をとどろかせていることを知る。政府が派遣した討伐隊は志々雄を前に成すすべがなく、最後の望みとして剣心に白羽の矢が立つ。志々雄の野心を阻止すべく、剣心は京都へ向かう。
原作に登場する宇水さん
納得できないので、宇水さんのシブさを思い出そう。映画版しか知らない人は、ぜひこれを機に興味を持ってください。
宇水さんの必殺技は「心眼」。幕末時に志々雄に敗れたとき、両目の光と引き換えに会得した力だ。心眼の正体は異常なまでに発達した聴覚で、相手の鼓動から心理状態を読み取ったり、骨の摩擦音や筋肉の収縮音から行動を察知したりと、ほとんどチートと言っていい能力。
この心眼を引っさげ、琉球に伝わるティンベー(亀甲型の盾)とローチン(石突に小型の鉄球が付いた槍)を駆使した戦術で斉藤を圧倒したが、結果的には、「志々雄に復讐すると宣言しておきながら、内心はビビリまくっていて虚栄を張っているだけ」という情けない本心を見透かされ、冷静さを失ったところで「牙突・零式」の餌食になる。
「悪・即・斬」のために剣を振るい続けると発言した斉藤に対し「近代化していく明治の世でいつまでそんなことができるかな?」と、至極まっとうな未来予測を指摘しながら絶命する宇水さん。
己の信念を貫く。簡単なようでこれほど難しいことはない、と、宇水さんは志々雄に挑戦すらしなかった人生を悔いて息絶える。
新京都編 前編 焔の獄での宇水さん
キャラが立っているにもかかわらず、結果的には「ただの負け犬」という扱いに不満に思った人がいたのか、オリジナルアニメ版での宇水さんは一味も二味も違う。何が違うって、本気で志々雄に復讐を果たそうとしているのだ。
原作で斉藤は、「己の信念を貫けない男など生きていたって死んでいたって惨めなもんだ」などと言っているが、焔の獄編の、覚悟に満ち満ちた宇水さんにそんなこと言ったら瞬殺されかねない。なんてったって、志々雄と由美の夜の営み中にも襲ってくるほどだから。
その場を志々雄にいなされたのが不満だったのか、命令されてもいない警官50人殺しをやってのけた後、
「俺は国取りなぞ興味はない」 「欲しいのはお前の命だけだ」
と真っ向勝負を挑む。まあ、普通に負けてしまったけれどね。
最期は、志々雄にアイアンクローされながら「貴様の燃えていく姿が見えた」と予知して絶命。志々雄はほぼ無傷のようなので、実力差は承知の上で向かっていったのだろう。漢だ。
こんなに成長した宇水さんも描かれているのに、映画版ではセリフなしで一撃瞬殺の刑とは……。あまりにもムゴすぎる。
安慈VS左之助も同等にムゴイ
ムゴイといえば、悠久山安慈の扱いも結構ムゴイすぎない?
だって二重の極みが使えないんだよ。
安慈といえば、破壊力抜群の二重の極みで一撃必殺の拳を繰り出してくる漢だが、映画版の安慈は線が細く、ボクサーのようなコンビネーションを活かした戦い方でまったく迫力がない。時間の都合で左之助との出会いをふっ飛ばしたもんだから、安慈だけ二重の極みを使えると勝負にならないせいだろうか。
ラストは、スリーパーホールドで左之助を絞め落とそうとしたところ、左之助のくすぐり攻撃でキャハハハと笑い、金的からのジャーマンスープレックスで気絶……。左之助に「そこ(金的)も鍛えとけよ!」と言われてしまう。10本刀No.3ともあろう者がどんだけ次元低いの……。
他の10本刀に関しては、気づいたら警察に捕縛されていて出番すらなし。10本刀は1人で警官50人くらいなら倒せるんじゃなかったっけ?
ただ、部下の不甲斐なさを埋めるためか、志々雄は4対1でも剣心たちを圧倒するなどFFのラスボスみたいに描かれていて、非常に存在感がありました。
さいごに
以上のとおり不満だが、宇水さんのあまりの冷遇ぶりを観て逆に笑ってしまったのは私だけじゃないはず。できれば映画館で「ハーッハハハ!」と高笑いしたかったのだが、頭の中でこのコマが浮かんだのでやめました。
ですよね宇水さん。