明らかに異彩を放ちながらも、その存在感を消したがる女。そんな謎めいた鈴子（蒼井優）がめちゃくちゃ魅力的である。
監督：タナダユキ
脚本：タナダユキ
出演：蒼井優、森山未來 ほか
短大卒業後、就職できずにアルバイト生活を送って過ごす鈴子。バイト先で意気投合した友達とルームシェアすることになるも、ひょんな事件に巻き込まれて「前科者」になってしまう。出所後は家族に迷惑をかけまいと実家を離れ、百万円を貯めるたびに街を転々とする生活を送る。行く先々の街でさまざまな人たちとで出会い、笑い、怒り、恋をしながら成長していく女の子の旅物語。
“前科もん”の烙印を押された内気なの女の子
クラスに一人はいた、目立たない子。けっこう美人なのに、オシャレには気をつかっていないような子。そういう子って、なーんとなく気になるよね。で、話しかけてみると、けっこう面白い。むしろ独特の雰囲気を醸しだしていてとてもステキ。
蒼井優演じる鈴子もそんな女の子。仕事もなく、友達もなく、彼氏もなく……。あるのは、明確に刻印された“前科もん”の肩書きだけ。軽犯罪ではあるが、21歳の少女を追い詰めるのには十分すぎる肩書きである。……いや、年齢に関係なく相当のハンデを背負う肩書きだが、鈴子はまだ恋もろくにしたことのない無垢な少女だ。
だから鈴子は旅に出る。自分のことを誰も知らない街へ、逃げるようにして旅に出る。そこで100万円貯まったら、次の街へお引っ越し。100万円に特に意味はなく、なんとなくの基準。
海へ、山へ、そして街へと移動する鈴子。生まれもっての人見知りで、新しい土地でも自己主張することはない。若くて美人な鈴子を男子が放っておかないが、人間関係は積極的に作らないスタンス。
「“前科もん”だってバレたらきっと嫌われる」
と思っているからだ。近況と心境を伝えるのは、実家で暮らす可愛い弟にだけ。
一方、弟は弟で、学校でイジメに遭っている。ここにもう一つ「成長」ストーリーが描かれているが、この子のキャラにまったく興味が持てなかったので完全にスルーさせていただく。
鈴子をときめかせる中島くん登場
さて、そんな鈴子に、やっと春の兆しが訪れる。バイト先の大学生に告白されて、あっさり恋に落ちるのだ。彼氏の名前は中島くん（森山未來）。
中島くんは、仕事ができて、誠実で、ちょっぴり人付き合いが下手そうな男の子。鈴子はそんなところに惹かれたのだろう。そして、前科があると聞いても動じない（まあ前科の内容にもよると思うが）。
中島くんはけっこうモテる。鈴子はそれが少しだけ気になるが、嫉妬心を表に出して騒ぐタイプではない。そっと、心の中にしまっておく。このあたりは鈴子の強さでもあり、弱さでもあるといえる。
金をせびり出す中島
しかしこの中島くん、徐々に見過ごせない行動を取り始める。なんと鈴子にお金を借りるのだ。
デート時の食事代、映画代ではおさまらず、挙げ句の果てには他の女の子とのお茶代まで。ふつふつと募る不信感。中島くんがメモした講義ノートをパラパラめくりながら、
「こんな字書くんだぁ…」
と、好きな人の字を愛おしそうに眺める乙女らしいシーンにグッときたが、このとき鈴子はもう限界の様子。夜、中島君宅まで行き、彼を問い詰めることにした。
「中島くんって、私のことすき？」
「…どこが？」
「…ほかには？」
来ました、この手の質問。
これに上手く答えられないと、どエライことになるケースがある。そして案の定、ヘタレ中島は大した返答ができない。その様子を見て、鈴子は恐る恐る確信にふれる。
「・・・あたしがお金持ってるからでしょ？」
中島撃沈。
そうなのか？そうだったのか中島！？お前はそんな腐った奴だったのか！！！
カレとの決別と衝撃の真実
中島に愛想を尽かした鈴子は引っ越すことに決めた。まだ100万円貯まってないけれど。新しい出会いのために。もっと強くなるために。
一方、中島である。鈴子に借りていたお金を返し、破局の痛みで心ここにあらず状態。隣には、ひょっとして浮気相手？とも邪推できる後輩女子が不機嫌な顔で中島を見つめている。
後輩「いいんですか？ 誤解されたままで」
中島「……………………」
後輩「100万円貯まって、引っ越されるのがイヤで…」
「わざとお金借りてたんでしょ！？」
中島「……………………」
な、なんだって？
そうだったのか中島、いや、中島さん！
己の過ちに気付いたらしく、中島さんは愛用のミニチャリをフル回転させて駅へダッシュ。鈴子を傷つけたこと、もう一度やり直したいこと、さまざまな思いを胸に愛しの彼女を捜しに行く。今なら間に合うぞ！！
でも、会えないんですよねコレが。
まさに映画。絶妙のタイミングで行き違ってしまう。
「来るワケないかっ」
最後にさらっと言う鈴子。その言葉に、未練と決意はどれくらいの割合で構成されていたのだろうか。大衆ウケを狙うエンターテインメントとしては、ハッピーエンドで終わっても良かったかもしれない。が、鈴子らしいと言えば鈴子らしいラストだと思う。
これが大人の恋愛ならダメージがデカイが、お互いまだ21歳なのでやり直しなんて何度でもきくだろう。
中島くんの作戦は評価できるのか？
それにしても、特筆すべきは中島くんだ。「中島さん」なんて一度は尊敬してしまったが、彼の言動を現実世界に置き換えてリアルに想像したとき、果たしてそれはカッコいいのか！？と疑問に思うのだがいかがだろうか。
ハッキリとした男らしさが好きな私としては、「もっとストレート投げろよ」と言いたい。もちろん変化球投げることも必要だが、せめてストライクはとれよ。
引き続き野球に例えると、中島くんの作戦ってほとんど隠し球だと思う。真実を告げれば確実にアウトにできるくらいの技でだ。
でも中島くんは、球を隠し持っておいてタッチしなかった。
おいおい成立しねーだろ。と。
相手が経験豊富な女性なら、察知してくれたのかもしれない。でも鈴子はまだ21歳で、男性経験も（たぶん）中島くんが初めて。鈴子の生い立ちと性格から、「ストレートに効果なし」と判断したのだろうが、やはり男が最後に勝負するのは直球である。
という訳で、作戦を見誤った中島くんにヤキモキするラストだったが、蒼井優と森山未來が好きな人にはオススメしたい映画だ。
