『事故物件 恐い間取り』は、芸人・松原タニシ氏のベストセラー・ノンフィクション『事故物件 恐い間取り』を原作とするホラー映画…と言い張っている作品。
原作に登場するエピソードがほぼそのまま使われているシーンも多く、再現率はまずまずだといえる。事故物件特有の、ふとした瞬間に見せる気味悪さも上手に描いていると私は思う。
ところが、ホラーとして成立していたのは序盤だけで、中盤以降から徐々にギャグの要素が強くなっていく。「事故物件 映画」等でググり、サジェストワードに表示される「ひどい」をクリックしてみると、そこにはホラーを楽しみにしていた観客たちのやるせない怒りでうごめいていた。
どうしてあんな結末になってしまったのか、この場を借りてもう一度この映画を考えてみたい。
2020/日本
上映時間:111分
監督:中田秀夫
脚本:ブラジリィー・アン・山田
出演:亀梨和也、奈緒、瀬戸康史 ほか
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唐突に始まる陰陽師バトルに胸がしびれる…ってなんでやねん
いや、深く考えるまでもなかった。最後の物件でのできごとが全般的によろしくない。それまでは、小さなツッコミどころは山程あれど、一応はホラーの様相を呈していたのだ。
しかし、4件目の事故物件に憑いてたカップルの地縛霊らが暴れだすと、変な拝み屋(高田純次)から押し売りされたお守りが意志を持っているかのように働き出し、ファンタジーの世界に突入してしまう。
街でいきなり霊能者に声をかけられ身の危険を忠告される…といったフラグは使い古されているし、現実にそういう体験をした人も知っているけれど、何の捻りもないではないか。
事故物件を仕切る黒頭巾の死神、いやハロウィンの仮装で悪ノリしている大学生みたいな野郎が具現化してからはさらに最悪だ。黒頭巾仮装クソ野郎に操られ、死を覚悟した梓が「私…ヤマメ(亀梨和也)さんに会えて…幸せでした」などと薄っぺらい感想を述べたのにも興ざめしたが、元相方・中井(瀬戸康史)によるニワカ仕込みの密教呪術で何を見せられているのかもわからなくなった。
しかも黒頭巾仮装クソ死神、わりと簡単に負けちゃう。中井が放った線香メラをマホカンタしたら、特に前フリが効いているとは思えない傘でマホカンタ返しされ、消滅。その程度の実力でよくこれまで除霊されずにいたものである。
笑いで寿命を伸ばしてくれたのは江口のりこである
中井にお神酒やお札、線香などを持たせたのは横水(江口のりこ)だった。彼女は終始真っ赤なスーツに身を包んでいるが、血の色を連想させる赤は、古来より破邪・退魔の効能があると信じられてきた色だ。横水は初めから呪術廻戦要因だったのだ。そして彼女は彼女で、ヤマメが危険な域に突入していることを案じていたのだろう。
しかし、ヤマメや中井が危機一髪の死闘を演じている最中に、彼女は小籠包を食べていた。ははーん、怖がらせる気がないな?と観客全員が確信した瞬間ではないだろうか。
「笑いとは緊張と緩和である」とはダウンタウン松本人志氏の言葉だが、その意味で横水は最高のパフォーマンスを演じている。ヤマメの信念である「笑いは人の寿命を174秒延ばす」をやってのけてた横水こそ主役だといっていい。
一介の不動産屋がなぜ密教呪術を心得ているのか、作中で語られる描写はない。事故物件を扱ううちに身の危険を感じ、どこかの拝み屋にでも習ったのかもしれない。街角でヤマメに声をかけた軽いノリの拝み屋だったのでれば、アナザー・ストーリーを見てみたいものである。高田純次と江口のりこのタッグだ、需要はあるだろう。
結果的に横水は黒頭巾仮装野郎に敗北してしまうが、「あなたがいたからこの映画を最後まで見れた」と首を垂れたい。
A級戦犯は誰だ?中田と山田だ
原作ファンや松原タニシ氏のファンほど亀梨和也の外見や関西弁にイチャモンをつけているようだが、そこじゃないだろ。もちろん「奈緒の演技がひどい」という評価も賛同できないぞ。むしろ、飛び道具みたいな江口のりこを除けば、奈緒の演技に一番好感が持てた。
悪いのはすべて監督と脚本家で間違いない。
行動原理が薄っぺらいキャラクター、長続きしない緊張感・恐怖感、中途半端な呪いの連鎖、どれを取ってもジャパニーズ・ホラーの全体評価を貶めている。
亀梨和也は客寄せパンダに使われたといわれても過言ではないし、現在も事故物件に住み、体を張り続けている松原タニシの評価は二次被害的に下がってしまったのではないか。
とはいえ、タイトルに書いた通り、ところどころ笑わせていただいたので怒りはない。最終的に梓がヤマメの彼女になる展開は、作中で誰よりも霊に怯えていたのに好きな人のために頑張って良かったね、といった気持ちになった。横水の死は無駄ではなかったのである。