ニライカナイからの手紙は、蒼井優が初主演となった竹富島を舞台にした映画。タイトルで書いたとおり、題名と物語の冒頭を突き合わせると瞬時にオチが分かってしまうシンプルなストーリーが特徴。
それでも感動できるかどうかは観る人次第だが、私はちょっとダメでした……。
ニライカナイとはつまり……
竹富島で生まれ育った風希(蒼井優)は、幼い頃に東京へ行ってしまった母(南果歩)から誕生日ごとに届く手紙を楽しみにしている。母がなぜ戻ってこないかは謎だが、風希が20歳になればすべてを説明すると書いてある。それまではどうか、おじぃ(平良進)の言うことをよく聞いて元気に過ごすようにと。
母がすでに帰らぬ人となっていることは、ニライカナイからの手紙というタイトルを見ても察しがつくだろう。
ニライカナイとは常世の国のことで、海の向こうにある、いわば理想郷を指す。沖縄の人は、そこで生まれ帰っていくという宗教観を持っているそうだ。ニライカナイからの手紙とは、死して永遠に変わらない世界へ旅立った母からの手紙なのだ。
ちなみに、ニライカナイのことを波照間島では「パイパティローマ」、石垣島では「ニーラスク」というらしい。
とりあえず、オチは分かった。母からの手紙はおじぃが細工しているのだろう。問題は、母は東京のとこかで生きていると信じて疑わない風希をどう納得させるだが……。
リアリティに欠ける結末
母がすでに他界していることを、風希は衝撃をもって知ることになる。20歳を迎えた約束の日、母は指定の場所に現れず、急いで実家に帰るとそこには遺影が置いてあったからだ。「おっかぁが死んでた〜〜〜〜」と泣き叫ぶ風希。そりゃ泣きたくもなるわ……。
母は壮大な嘘をついていたことになるが、母には母なりの理由がある。自分自身も幼い頃に母を亡くした経験から、娘だけは「親のいない子」にしたくなかった。おじぃと相談した結果、一度に書き溜めた手紙を誕生日ごとに配達してもらう苦肉の策を取ったのだという。
すべての謎が判明した後、竹富島の美しい背景をバックに、風希が母からの手紙を読み涙する感動シーンに突入するのだが、私は次の理由でまったく泣けない。
(1)風希は島の大人たちから十数年間も騙されていたという後味の悪さ
(2)幼い頃に真実が分かっていれば芽生えたかもしれない選択肢の豊富さ
(3)郵便屋の協力にほぼすべてを託すスキームの甘さ
(4)おじぃによる逆効果にしかならない異常なまでの無口さ
(1)については、何事もみんなで協力して助け合う『うつぐみ』の心を表しているのだろうが、私なら人間不信になりそう。気持ちは理解するが小学生から20歳までの月日は長すぎる。
あと、同じ沖縄の離島の人でも、『ナビィの恋』に出てくる奈々子なら「だから島はいやサ!」とか言い出しそう。
さいごに
人を幸せにする嘘もあるのは分かるが、感動するかどうかは別。私は一連のストーリーにリアリティを感じず泣けなかった。風希が母の手紙を次々と読み上げるシーンを「くどい」と思ったほどだ。
さいごにまったく関係ないが、蒼井優の幸薄そうな演技がうますぎて、師匠のカメラマンにボロクソに怒られていた昔の仕事仲間を思い出した。
あんなふうに言われるのはキツイと思う。小柄ながら重い機材を持ち歩き、説明不足の師匠の指示に戸惑いながら現場をセッティングしていく。ああ、あのときのAさんやEさんはその後お元気だろうか……。
否定的な意見で申し訳ないが、竹富島の美しい景色とそこに溶け込む蒼井優の存在感は素晴らしかった。西桟橋に建っているポストもよい。あんなところにあったら写真映えるんだろうなあ。実務上は困るだろうけど。