【ネタバレあり】教科書的な死亡フラグと伏線が捻りなしで回収される『エベレスト 3D』

【ネタバレあり】教科書的な死亡フラグと伏線が捻りなしで回収される『エベレスト 3D』
【ネタバレあり】教科書的な死亡フラグと伏線が捻りなしで回収される『エベレスト 3D』
2015年/米国 
上映時間121分
監督:バルタザール・コルマウクル
脚本:ウィリアム・ニコルソン
出演:ジェイソン・クラーク、ジョシュ・ブローリン、ジョン・ホークス、森尚子
Amazonプライムビデオで視聴可能

エベレスト登山史上、最悪の遭難事故として扱われていた1996年の悲劇を映画化した二度目の作品。プロ中のプロが率いるガイド登山にもかかわらず、隊長を含め計12人が死亡した。

シルベスター・スタローン主演の『クリフハンガー」を観て以来、私は「ガチの登山は絶対にしない」と心に決めたのだが、その誓いはこの映画でより強固なものとなった。エベレストなんて1,000万円もらっても行かん。

以下、この登山に参加したジョン・クラカワー(記者)著の『空へ―エヴェレストの悲劇はなぜ起きたか』で得た情報も加えながら、ネタバレで感想を語る。

(※その反論本にあたるアナトリ・ブクレーエフ著の『デス・ゾーン』は絶版で中古が高すぎるので未読)

教科書的な死亡フラグから物語スタート

物語は、エベレストのガイド登山隊を率いるロブ・ホールが、出産を控えた妻・ジャンとの別れを惜しむところから始まる。

「気をつけて行ってきてね」
「子どもが生まれる前に戻ってくるよ」

この映画は史実を元にして作られており、ロブ・ホールは実際に亡くなっているのでこんな言い方もどうかと思うが、典型的な死亡フラグである。エベレストの大量遭難事故について知識ゼロだった私からすれば、王道すぎて引っ掛け問題かと思ったくらいだ。

「セブンサミッツ」をかけて日本人の難波康子も参加していた

そんなロブの『アドベンチャー・コンサルタンツ隊』には今回、アウトドア誌『アウトサイド』の記者・ジョン・クラカワーが参加している。彼は趣味と取材を兼ねて、「最も信頼できる実力者ガイドの隊に僕の名前で申し込んでくれ」と編集長にオファーしていた。

この頃のエベレスト登山は、技術不足なアマチュアでも登頂できるよう、プロのガイドがサポートを行うビジネスの場になっていた。ロブはそうした商業登山分野の第一人者として知られていた。

ロブ隊の顧客には、記者のジョン・クラカワーの他に、郵便局員のダグ・ハンセン、病理学医ベック・ウェザーズ、そして日本人で会社員の難波康子などがいた。

難波は、セブンサミッツ(=七大陸最高峰の山を制覇する)のうち、エベレストを除く六つに成功しており、今回の登頂が成功すれば日本人女性で二人目の快挙だということで注目されていた。顧客同士の顔合わせのシーンでも、ロブは少し特別な扱いで彼女のことを紹介している。

六大陸制覇といってもすべてガイド登山であり、ジョンの証言が正しいとするならば、難波の登山技術には未熟な部分が多かったらしい。彼女の不注意のために遠征隊全員が危険にさらされるヒヤリ・ハットもあったという。

雪辱を果たしたい”ダグ・ハンセンの想い”という伏線

郵便局員のダグ・ハンセンは、前回の登頂であと一歩のところまで迫ったが、下山時間を過ぎており、徹底した安全管理体制を敷くロブに止められ涙を飲んだ。

顧客の命を護るためとはいえ、ゴール寸前で引き返させたことを申し訳なく思っていたロブは、ダグに何度も電話をかけて再チャレンジを促していたという。ダグも悔しさでいっぱいだったので、「今度こそ俺の人生からエベレストを追い出す」という意気込みで仕事を3つも掛け持ちし、資金を貯めた。

「ロブ、ディスカウントありがとう」
「君なら当然さ。今年こそ成功させよう」

といった会話にはこういう経緯があり、この友情こそが今回の大量遭難事故を引き起こした。ダグは、作中では出遅れ気味な人、という印象だが、「顧客の中で誰か一人だけが登れるとしたらダグ」というくらいの実力者だったようだ。

ロブがライバルのスコットに釈明した理由

ベースキャンプはさまざまな隊で混雑していた。映画の撮影目的で来ていた『IMAX隊』、ジョンがわりとボロクソに書いている”マカルー高”の『台湾隊』、国家の威信を背負っていたがゆえに協調性に欠けていたとされる『南アフリカ隊』など。

そのなかに、ロブのライバルであり盟友でもあるスコット・フィッシャー率いる『マウンテン・マッドネス隊』もいた。

スコット・フィッシャーは、突撃的ともいえる登山スタイルでカリスマ性にあふれ、その魅力と実力は、”超人シェルパ”として名高いロプサン・ジャンブが「兄貴」と慕って尊敬しまくっていたほどだ。

ロブはスコットに対し、記者のジョン・クラカワーの参加について「あれは顧客を盗んだわけじゃない」と釈明する。

実は当初、ジョンはスコット隊に参加する予定だったが、それよりも好条件を提示してきたロブ隊に乗り換えた経緯がある。これについてジョンは「乗り気ではなかった」と述べているが、取材費を出すのはアウトサイド社だし、ロブの実力と実績を知って納得に至ったという。

競合が増えたことで、ロブもスコットも、赤字ではないにしろ潤っているとは言えなかった。登山界に影響力のあるアウトサイド社を宣伝に使いたかったのはそのためだが、そのような状況のなかで、スコットは顧客を横取りされるという、腸が煮えくり返る思いをさせられたわけだ。

にもかかわらず彼は、持ち前の大らかさで「もういいよ、そんなこと」という態度を見せる。映画にはないが、ジョンに対しても恨みがあるような素振りは一切見せず、肩を組んで再会を喜んだという。スコット、いい奴。

「体調不良」と「面倒見の良さ」が引き起こす悲劇の伏線

先述のとおり、ガイド登山のルートはさまざまな隊で大混雑しており、一部顧客からは不満が爆発していた。そこでロブは、各隊で協力してなんとか混雑を回避しようと提案するも、南アフリカ隊や台湾隊はこれを拒否。

最大の商売敵であるスコットだけが手を組んでくれたが、このときのやり取りでも、2人の死亡フラグが立っている。

一つは、スコットが「腹の調子が悪い」というシーン。スコットは万全の状態ではなかったのだ。そこに加え、顧客やガイドたちの予想外(?)の急病へのサポート。休み休みやれば良かったのに、ロブと競って無理を通し続けた結果、体力が尽き山に眠ることになった。

もう一つは、スコットがロブと自分とのガイドスタイルの違いを指摘するシーン。ロブが、「顧客の面倒を見すぎる」のに対し、スコットは、「自力で登れない奴は諦めろ」というスタイルを貫いている。この指摘どおり、ダグのサポートを優先しすぎたロブはダグもろとも死んでしまった。救助にやってきたアンディ・ハロルドも亡くなったのだから、ロブの判断ミスは非常に大きいとされている。

さて、隊長たちは手を組んだものの、ガイドたちもハイそうですか、とはいかなかった。まず、シェルパ頭のアン・ドルジェ(ロブ隊)とロプサン・ジャンブ(スコット隊)は、協力し合えば最強コンビ間違いなしの超一流シェルパなのに、昔から反りが合わない。

また、スコット隊ガイドのアナトリ・ブクレーエフ(超実力者)は、顧客をサポートするために体力を温存しておくべき立場にありながら「酸素ボンベなんて俺には不要。切れたら厄介なだけ」と困ったちゃんなことを言い出す。

ジョンは著書のなかで、「アナトリのガイドとして行動には納得できない」といった主張を展開し、こき下ろしている。

難波康子も登頂した感動シーン

悪天候に悩まされていた一行だったが天気は奇跡的に回復し、ロブはチャンスと判断してGOサインを出す。

しかしヒラリーステップまで登ってみると、張られているはずの固定ロープが張られていないことが発覚。スコット隊シェルパ頭のロブサンが、自隊の顧客サンディ・ピットマンのサポートに付きっきりだったためだ(ジョンと同じくジャーナリスト。同業者かつ登山技術が未熟だったためか彼女のことも批判している)。

仕方なく、その場にいたガイド達で作業することになったが、この遅延で登頂を諦める者が出てくる。結果的にこれが、彼らの命を救うことになるのだが。

固定ロープ問題が解決し、ようやく頂上が手の届く範囲にあるとわかった辺りから、それまで出遅れ気味だった難波康子は生気を取り戻したという。ようやく上り詰めた頂上では日の丸の旗を立て、

「ありがとうございます。ありがとうお母さん」

と感謝した。この森尚子さんの演技には感動! ロブの「セブンサミッツだ!君を本当に尊敬するよ!」という労いの言葉がさらにグッとくる。バルタザール・コルマウクル監督もお気に入りの名シーンだ。

しかし固定ロープ問題で時間を費やした一行は、忍び寄っていた嵐に捉えられてしまった。下山途中で猛吹雪に巻き込まれた難波は、ベッグ・ウェザーズらと共に遭難。アナトリ・ブクレーエフが救助にやって来たものの、「救えない」と判断されて息のあるまま置いてけぼりにされた。それは標高7,800mの第4キャンプからわずか200メートルの地点だった(ベッグ・ウェザーズは奇跡的に目を覚まし自力で合流してきた)。

事件の後、アナトリはこの件をひどく後悔し、難波の遺体をきちんと荼毘に付した上で、遺品を家族に渡した。そんなアナトリも翌年に遭難死してしまうのだが。

なぜ山に登るのか?という永遠の質問

「重要なのは、生きて頂上へ行き、降りてくること、その一点のみ」。顧客たちにそう語っていたロブ・ホールは、自らが課した厳格な登山ルールを破った結果、命を落としてしまった。

「自力で登れない奴は諦めるべき」と語っていたスコット・フィッシャーは、体の不調を押して無理をした結果ダウン。信条どおり「俺を置いて行け」と言ったまま力尽きてしまった。

登頂前ベースキャンプで、ジョン・クラカワーが、「君たちはなぜ山に登る?」と尋ねるシーンがあるが、ホント、こんな危険を冒してまで本当になぜ登るんだろう。

あまり答えを持ち合わせていない皆は、ふざけて「そこに山があるから」というイギリスの登山家・ジョージ・マロリーの言葉で茶化すが、こういう映画を観るたびに改めて思う。いやマジでなぜ登るのか?

ちなみに、「そこに山があるから」に哲学的な意味はなく、実は誤訳に近いものがあるとされるが、上岡龍太郎と島田紳助は昔、

「”そこに山があるから”なんて理由になっていない。”8合目に親戚のおっさんがおるから”とか、そんな理由なら納得できる」

とギャグにしてからかっていた。こうした史実ベースの映画を観た後ではふざけんなという気になるが、チキンな私は結構同感である。

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