元極道である異色の小説家・沖田臥竜原作のドラマ『ムショぼけ』をNetflixにて鑑賞。長い刑務所暮らしで現代社会の変化やスピードについていけない元ヤクザ・陣内宗介のドタバタをコメディタッチで描いた作品である。
陣内を演じる北村有起哉の風貌が絶妙に覇気がなく、リアルで素晴らしい。仮に元ヤクザといわれたところで向かっていく半グレはそこら中にいそうである。
元舎弟やその連れのギャル、元兄貴分、再就職先の年上をなめきった若造など、初登場時は敵ともいえるキャラクターが回を重ねるごとに陣内を慕い、かけがえのない仲間となっていく展開に心が温まる。
念願だった娘・息子とも再会でき、刑務官(板尾創路)の幻影に日々ディスられながらも、陣内は一歩一歩、幸せを取り戻していた。
特にギャルのリサ(武田玲奈)は陣内を一人の男性として慕っているとも取れ、ギャル特有のノリとスピードで距離を詰めてくる。元妻が再婚済みでヨリを戻すのは不可能と知った陣内の傷心の隙間に、リサという女性が住み着きはじめていた。それは視聴者、少なくとも私にとっても同じだった。途中までは明らかなチョイ役でノーマークだったのに。
しかし、リサは自殺という形で唐突にこの世を去ってしまう。それは陣内一家と楽しく過ごしたはずの日の夜だった。
リサがなぜ自殺したのかを明言するシーンはないが、アンチからの誹謗中傷に苦しんでいたと見て間違いないだろう。彼女は「エゴサはしていない」と言っていたが、実はしていたのだ。原作者の沖田臥竜氏は週刊誌のインタビューでこう語っている。
ちょうどこの作品を執筆していたとき、女子プロレスラー(木村花さん)や三浦春馬さん、竹内結子さんなどの悲しいニュースが続いていました。現代的なテーマとして、これは欠かせないと感じました。
「いつも『死』がテーマにある」『ムショぼけ』沖田臥竜×鳴海唯対談
リサを失った悲しみで動けなくなった陣内が、迷路のような商店街でリサの幻影を追い自責の念に駆られるシーンは印象に残った。リサは何を尋ねられても、陣内の記憶の範囲内にあるセリフしか話さない。どうせ陣内の夢なのだから、陣内が望む通り会話してくれてもいいのに。
しかし、当日は躊躇してできなかったハグをしかえすと、わずかだがリアクションしてくれたのを感じ取れた。あの日の夜、こうして抱きしめてあげればリサは思いとどまったのだろうか……。
結果的にはリサの死をバネにして自著の出版を成功させる陣内だが、私は陣内の隣で「宗介まじウケる〜」(ちょっと古い?)とはしゃぐリサを見たかったなぁ。それくらい、リサ・武田玲奈ロスだし、読後感はリサを失った喪失感だけである。
この悲しみを埋めるために、武田玲奈の連続ドラマ初出演となった『監獄学園』を見直すしかない。登場人物が一人残らずアホで、唯一まともなヒロイン(武田玲奈)もアホ共に翻弄される笑いあり、お色気ありの超大作である。作品にこれくらいのギャップがないと無理。
追記:死後のリサが陣内と刑務官との会話に割って入るシーンがあるが、そこでもリサは陣内が記憶している範囲のセリフしか話さない。しかし、刑務官はリサを認識している。もしや、刑務官も死者なのだろうか? 原作を読んでみるか……。