Netflixで鑑賞。カーソルを合わせると自動で流れる信江勇の暴走シーンが秀逸すぎて、つい本編を見てしまった。しかし期待していたコメディタッチは前半で影を潜め、中盤以降は性暴力が飛び交う過激な描写が続く。
2016年/日本
上映時間:1時間39分
監督:吉田恵輔
出演:濱田岳、森田剛、佐津川愛美、ムロツヨシ
★Amazonプライムビデオで視聴可能★
「なにも起こらない日々」に焦りを感じながら、ビル清掃会社のパートタイマーとして働く岡田(濱田岳)。同僚の安藤(ムロツヨシ)が想いを寄せるユカ(佐津川愛美)が働くカフェに向かうと、そこで高校時代の同級生・森田正一(森田剛)と出会うが、その後ユカから森田にストーキングされていると知らされる…。
引用:Amazonプライムビデオ
役者陣の秀逸な演技だけで繰り返し見られる
善人ではあるが希薄なヘタレ野郎役をやらせたら日本一の濱田岳、ジャニーズでありながらサイコパスすぎる殺人鬼を見事に演じた森田剛、純情そうに見えて普通にどエロい「男性目線のヒロイン」が拍手喝采レベルの佐津川愛美、悲惨で不幸な役柄だけどそこにいるだけで面白いムロツヨシと、とにかく役者陣が素晴らしいと感じた。
また、冒頭で述べた信江勇演じるアイちゃんの勘違い女っぷりは非常にリアルで、むかっ腹が立つほどである。
しかし彼女は全てを喝破する特殊能力を備えており、森田のことも彼女に相談すれば最適解を導いてくれたのでは?と思ってしまう。ただ、そうなると森田はアイちゃんを邪魔者認定するだろうし、彼女は無事ではなかっただろう。アイちゃんほどの逸材を失うわけにはいかないので、彼女を居酒屋シーンだけで終わらせたのは正解だったといってよい。
まあ、幼稚園からの友達といってもユカはアイちゃんと距離を取っていそうだし、居酒屋に誘ったのも明らかに自分より格下だからっぽいし、センシティブなことを相談するわけないか……。つまりアイちゃんはどの世界線でも無事!信江勇さんはちょい役だけど素晴らしい存在感を見せてくれた。
会話が微妙に噛み合わない奴とは距離を取れ
「触らぬ神に祟りなし」というが、ではどんな人物が「触らぬ神」なのか?その基準の一つが「会話が微妙に噛み合わない人」だと私は思っている。
こちらの説明能力が欠けているだとか、相手の理解力が乏しいだとかのケースではない。互いに論点がわかっているのに、変なところで話が進まないケースである。
路上喫煙を注意されてからタバコを消し「もう吸ってないでしょ?」と言ってのける森田がまさにそれだ。問題点を理解しながら、原因と結果も理解しながら、過ぎたことで責められる理由はないと本気で思っているように映る。
岡田に誘われた居酒屋の席でも似たようなシーンがあった。ユカが勤務するカフェに行ったのは初めてだ言っておきながら、カフェに入り浸りユカにラブ目線を送る安藤のことは認識している。岡田に突っ込まれると平然とウソを付く森田の表情に、薄ら寒いものを感じてしまった。数秒前の発言ですら覚えていないというより、自分にとって重要でない話題に居続けることはないのだろう。
濱田岳が最高の役得を終えた後に地獄の扉が開く
安藤は「ユカの気持ちに応えたらチェーンソーでバラバラにする」と脅すが、岡田はユカの誘惑にあっさり負ける。もんじゃ焼き屋でめちゃくちゃな焼き方をしても、童貞丸出しのクソダサい質問をしても、ユカの気持ちは岡田ラブ。超が付くほど積極的で、まさかの初デートで筆おろしが完了。
このラブシーンに対し、佐津川愛美は「印象に残したい場面だったので少しセクシーに映れたらなと思いました」とコメントしているが、セクシーすぎて濱田岳を妬むレベルである(見てない人は損してるよ!)。
思えば濱田岳は波留や倉科カナともうらやましい関係を演じており、花山薫なら
とつぶやいて消しにかかっているところだが、代わりに睨みを効かせていたのは森田だった。森田が岡田をターゲット認定した段階で映画のタイトルが流れたのを見て、私の脳裏では「さあ〜お遊びは〜ここまで〜だ〜」とキン肉マンの『炎のキン肉マン』が流れた。くすりとするほんわかラブコメディはここまでなのである。
ユカは岡田に突かれて喘ぎ、和草(駒木根隆介)の婚約者(山田真歩)は森田に殴られ苦痛の声を上げる。どちらも声だけを聞けば女の悩ましい声であるが、中身は180度違う。このシーンが交互に流れるのは、森田にとって性と暴力は表裏一体、どちらも気持ちのよいものだという描写なのだろうか。
森田を目覚めさせたアイテムに納得がいかない
原作での森田はもともとサイコパスであり、「異常者である自分」に絶望を感じ自暴自棄になった描写がある。しかし、映画では酷いいじめが原因で人生を踏み外したという、同情の余地を残す設定になっている。
彼を救ってくれたのは高校時代に飼っていた愛犬…に似た白犬だったわけだが、愛犬と触れ合う前フリが一度もないので少し納得がいかない。
森田を演じた森田剛は、あまりに気の滅入る役柄のため撮影の合間にペットショップへ行って癒やされていたらしい。作中の森田だって、そのような演出があってよかったのでは?と思ってしまう。パチンコ帰りにカツアゲ&ボコられた後にペットショップでボーッとするとかさ。
一瞬、まだ人生が平和だった頃に仲が良かった岡田を回復アイテムに使うほうが話が通る気もしたが、よく考えたらあの野郎すごい裏切りをしているんだったな。
今さらだが、ユカがなぜ岡田に惹かれたのかまったくわからない。
さいごに:安藤が気の毒で仕方がないんだが……
安藤は見た目も中身も気持ち悪くて一ミリもお近づきになりたくないし、ユカが眼中にない理由もよ〜くわかるのだが、それにしたって不幸すぎないだろうか。
演じたムロツヨシは、「股間を打たれたときの気持ちも痛がり方もわからなかった」と語っているが、見ているこっちが「あ!」となるほど非常にリアルだった。
原作の安藤には少しではあるが救いがあるので、映画の安藤は不憫で仕方ない。だが、ムロツヨシなのでどこか笑えてしまう。役者の存在感とはすごいものである。