映画『きさらぎ駅』のネタバレ感想!春奈は永遠に他者を生還させる地獄ループをたどる?

映画『きさらぎ駅』のネタバレ感想!春奈は永遠に他者を生還させる地獄ループをたどる?

ここ数年流行りの異世界ものは明らかなファンタジー色が強いが、きさらぎ駅は「現実とはなんか違う世界」だからリアリティがあるし、好奇心をそそられる。

どこで目にしたのか忘れたが、きさらぎ駅の元ネタを書き込んだ「はすみ」氏のような体験をした人は結構いるようで、「同じ日本っぽい世界なのにひらがなの発音が微妙に違う」とか、とにかくちょっとした差が背筋を凍らせるのだ。

今回は映画なのでかなりの味付けを加えてあるが、脚本や構成がかなりしっかりしているので非常に楽しめた。細かいツッコミどころは低予算ということもあり、目をつむることにしょう。名高い都市伝説を素晴らしいエンターテインメントに作り変えてくれて感激である。

2022/日本
上映時間:82分
監督:永江二朗
脚本:宮本武史
出演:恒松祐里、佐藤江梨子、本田望結 ほか

あらすじ:2004年、ハンドルネーム「はすみ」という女性が2ちゃんねるのオカルト版「身のまわりで変なことが起こったら実況するスレ26」に書き込んだ内容が話題を呼ぶ。息の長い都市伝説となり、民俗学を先攻する女子大生が興味を示す。「卒業論文の題材に」とはすみ氏を尋ねると喜んで迎えてくれるが、彼女の話には壮大なミスリードがあった。

世にも奇妙な物語『プリズナー』を思い出す

映画のきさらぎ駅は、明日香(本田望結)を助けたい純子(佐藤江梨子)がオカルト好きを壮大に釣る物語だ。純子は春奈(恒松祐里)にきさらぎ駅で起きた一部始終を詳しく話したが、元の世界に戻れる方法だけはブラフをかました。春奈は純子の思惑通りに動き、比奈というループ世界に閉じ込められてしまう。

これを見て真っ先に思い出したのは、その昔『世にも奇妙な物語』で見た『プリズナー』だ。海外で制作された伝説のビデオ『プリズナー』を探し求めていた主人公が、ついにレンタルビデオショップでそれを見つけて視聴すると、映像の中にいる男にテレビ内へ取り込まれてしまう。

主人公と入れ替わって現実へ帰還した男は、嬉しそうに「悪いな」等と言ってテレビの電源を消す。映像内に閉じ込められた主人公は、代わりの誰かを求めてレンタルビデオ店の棚で待つしかないというオチだ。

春奈は誰かを現実に返すお手伝いをし続けるのでは

出典元:映画「きさらぎ駅」公式サイト https://kisaragimovie.com/

きさらぎ駅の世界に閉じ込められると厄介なのは、プリズナーの世界と違って事の経緯を覚えていない点。死ねば記憶をリセットされ、電車の中で目を覚ますところから始まる。

きさらぎ駅がある比奈という町は『たけしの挑戦状』ばりの無理ゲー世界で、クリアするのはむちゃくちゃ難しい。謎の血管を回避するのは至難の技だし、敵となる住人も一見普通の人だから警戒しようがない。

そこで気になったのは、春奈の記憶はどこまでリセットされたのか?だ。明日香を救うためにやってきたことを覚えているなら、当の明日香がいないことで混乱するも、とにかく無事に脱出することを最優先するだろう。最大のトラブルメーカーである翔ちゃん(木原瑠生)は当然サクッと殺すし、車で送るという地元のおじさん(坪内守)も石で殴り倒す。

「強くてニューゲーム」ができる春奈の生存率は非常に高いが、「光の扉を先に出ると死ぬ」という偽情報をつかまされているため、やっぱり生き残ることはない。結果、春奈は誰か一人を現実に戻すためのサポートをし続けることになる。

出典元:MOVIE WALKER PRESS https://moviewalker.jp/

そういえば、純子と春奈の話を盗み聞きし、エンドロール後に異世界エレベーターを使ってやってきた姪の凛も偽情報を仕入れている。ということは、彼女と春奈が手を組んで誰かの生還サポートをするというループもあるのかもしれない。

春奈がきさらぎ駅にやってきた目的すら忘れているケースも考えられるが、普通に無理ゲーの世界なので生存率は極めて低い。しかし純子が帰ってこられたのだから、春奈にだってチャンスはある。現実に帰還する偽情報も忘れているため、我先にと光の扉へダイブするかもしれない。若者バカ三人衆にも酔っぱらいサラリーマンにも遠慮しないだろう。春奈はきっとそんな奴。

一夜の出来事のはずが7年も経っていたのはなぜ?

出典元:MOVIE WALKER PRESS https://moviewalker.jp/

異世界で流れる時間のスピードが異なるというのが一説だが、私は純子が7年間失敗し続けていたせいでは?と思っている。死ぬと記憶がリセットされて電車内で目覚める設定なのだから、あの一夜を7年繰り返していても不思議ではない。

先ほども述べた通り無理ゲーなんだ。死に方は微妙に異なる可能性があるが、きっと翔ちゃんは7年連続でトンネルの上に吸い込まれたと思う。

春奈はどうやって明日香を連れ戻そうとしていたのか?

最大の謎はこれである。明日香以外の誰かを適当に光の扉へ蹴り込めば、残りのみんなは解放されると思っていたのだろうか?

二人そろって現実世界へ帰還できるプランをどのように練っていたのか、いまいち計画がはっきりしない。明日香を連れ戻すという大義名分を掲げてはいるが、結局は民俗学好きの血が騒いだけなんだろうか。

蛇足だが、翔ちゃんを刺した後、線路の上歩いちゃだめだよ老人(野口雅弘)のほうへ前蹴りで蹴り飛ばしたフォームはなかなか良かった。

FPS視点と強くてニューゲームの俯瞰が最高にマッチ

春奈がきさらぎ駅で体験することは純子が体験した通りであり、『カメラを止めるな』のように同じシーンが別視点でリピートされる。

純子のときはFPS視点(一人称)で、ホラーゲームのような緊張があり、何が待ち受けているかわからない。一方、春奈は事の顛末を理解しているため俯瞰的に物事を見ており、視聴者を安心させる。

シーンのリピートは少々くどいとも思われたが、春奈が新しい選択をすることで微妙にストーリーが分岐する展開はワクワクした。

ベジータとナッパの襲来で生き残れた戦士はご飯とクリリン(とヤジロベー)だけだが、歴史を知っていればナッパの攻撃をうまくいなして全員生き残れたはずだ。ヤムチャの慢心も止められる。そうして全員そろってナメック星に行くこともできる『ドラゴンボールZ超サイヤ伝説』という神ゲーを思い出させてくれた。

春奈、ありがとう。何とか自力で脱出できますように。

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